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万博・日本庭園 汎庵茶事講座 4月最終回 レポ

2012年04月27日 05:42

万博・日本庭園 汎庵茶事講座 最終回
桜・さくら 透木釜にて正午の茶事

汎庵茶事講座最終回


お約束の三年間18回の茶事講座が終了しました。
最終回はきちんと正午の茶事でしめくくりをさせていただきました。
待合の掛け物は「百花為誰開」、何度か説法を拝聴させていただいた東福寺の慶道和尚の墨蹟です。
花は誰のためにとか、何のためにという、見返りを期待したり、図りごとをするのではなく、時期がきたら自然に花が開く。それは宇宙にしらしめす仏心の表れであるということでしょうか。
人生は山あり谷あり、いろんなことがあるけれど、自然に道は開かれてゆくのだから、花のように無心に時節を待ちましょう。

初座の床には「歩々起清風」、紹尚和尚の墨蹟を掛けました。
三年前に谷町のビルの中の茶室『峯風庵』を閉める、最後の茶事の勉強会のときの床に掛けてあったものと同じですねと、ご参加いただいた方からメールをいただき、とてもうれしく思いました。
茶の道、人の生きる道。歩みを進めたその後には清らかな風が吹くような、そんな毅然とした美しく潔い生き方をしたいものです。
節目節目に、掛けたいお軸です。

茶席の禅語からは、いつも生きる勇気をいただくとおっしゃった方ががいらっしゃいましたが、私もそんな風に、思える二つの禅語を掛けさせていただきました。

三年前、ある仕事を無理して請けてしまったことで、バランスを崩してしまい、谷町の私にとっては贅沢な茶室空間を維持してゆくことができなくなり、お茶はやめるか10年くらいは封印しようと覚悟を決めたときに、汎庵のお話をいただきました。
お茶が私を呼び戻してくれたのかもしれません。
そのとき、お茶をやめていたら、今の峯風庵の本拠地、重要歴史的建造物群保存地区じないまちとの出会いもなかったことでしょう。日本文化の集大成である茶道を通じて、これからの人々の生き方や持続可能な社会や地球のことを考える、そんなメッセージを発信してゆける場として、じないまちは最適の場、不思議なご縁で私の前に現出しました。
私の求める利休の時代の創造的なお茶の世界は、現代のきらびやかで型にはまったお茶の世界から見るとマイナーなのかもしれません。マイナーなりの苦労は、まだまだ背負ってゆかなければならないと思っていますが、信念は曲げません。

お茶の本質を理解できる人、真摯に茶の道を歩む人なんて、弟子が100人いても一人か二人ですよと言われていましたが、弟子を取らず社中も持たない私の講座に、何かと多忙なときに、最終回36名の方が集ってくださいました。三年前の初回にフランスからの一時帰国をあわせてくださった方も、最終回に顔を見せてくださいました。懐かしいお顔、毎回決まっていらして下さる方、岐阜や三重など遠方より起こしいただいた方も。本当にうれしいことでした。

最終日は、ベテランさんではなく可愛い亭主さん、正客さん(私も最後まで楽をしないで、できる限りのこととさせてもらい、汗流そうと。笑。)を選びました。しっかり務めてくださった亭主さん、はじめてのことで少し戸惑われたかもしれない正客さんの目には涙が。そして、あちこちで、涙。最後には、がんばった亭主への大きな拍手。こんなに感動できることって、お茶ならではですね。やっぱり、お茶って、素敵です。

汎庵茶事講座最終回



最終回は、4月の桜の季節にやってきました。
桜に託して、日本人の心を伝える講座に出来たことを、幸せに思いました。
参加者の方々とともに茶事の世界は作ってゆきますので、三日間同じ話しはできなかったかもしれませんが、講話「桜と日本人」を少し、紹介させていただきます。

大和言葉で「さくら」の「さ」は神様の美しい魂。「くら」はその魂の宿るところという意味があるそうです。満開の桜を見ると、まさに神々しいまでの美しさです。
桜前線が動き出すと、なんとなくそわそわ。
寒くても暖かくても、大阪では入学式の頃には、きちんと桜の花が咲いてくれます。
そして、短い期間ですが、満開の桜で視界がピンクの幸せ色に染まります。
いやなことやつらいことがあって魂が壊れそうになることも。でも、一年に一度のこの桜の季節には、なんだか命の洗濯が出来て、すっかりきれいに蘇る、そんな気持ちになります。
春に咲く桜は命の生のシンボルであり、また、さっと散りゆくさまに潔い死を思います。日本人の死生観には独特のものがあり、生と死は対立する概念ではなく、つながりの中で理解されていて、生と死を思わせる桜に象徴されているかのようです。

本居宣長
「敷島の大和心を人問わば朝日ににほふ山桜かな」
西行法師
「願わくば花の下にて春死な武曽の如月の望月の頃」
松尾芭蕉
「さまざまの事おもひ出す桜かな」

日本人の心を現した桜の歌をご紹介しながら、日本人の桜に寄せる気持ちを探ってみました。

日本は戦争という過ちを犯し、軍国主義に利用された桜(武士道の潔い死)でしたが、敗戦の泥沼から立ち上がったとき、日本は世界各国に桜の木を贈りました。美しい桜の花を通じて、日本人の感性や美意識が世界に受け入れられてゆきました。

でこんな講話をしてきましたのは、茶事はご飯を食べてお茶を飲むことではなくて、亭主と客とで一期一会を作り出すことです。(裏方はしっかり亭主のおもてなしを支えることで修行となります)これまで生きてきた全人生、全人格をかけて茶室に座り、すばらしい時空を作り出すことで互いに高めあう。それが茶事ですが、茶事となると皆さん無口になってしまわれるので、例題としてこんな話しで茶事の世界が広げられたらいいですねという気持ちもあって、毎回いろいろなお話をさせていただいておりました。
今回は、皆さんの桜の思い出話や生き方のお話も少しお聞きできて、今まで見えなかったお人柄にも触れることが出来ました。三年の成果かなとちょっとうれしい。

さてさて、茶事の進行を。
露地では、鶯が「ホーホケキョ』と見事に啼いています。拍手してあげたいくらいに上手です。雨にぬれた緑も美しく、心が洗われてゆくようです。

初座のご挨拶を一人一人、交わし、初炭手前。

汎庵茶事講座最終回

透木釜の姿が宇宙船のように見えて、狭い茶室は実は宇宙と同じくらい広く大きな世界を作り出すことができるという師匠の言葉が浮かびました。
香合は、山桜。山桜の花言葉は「あなたに微笑む」です。前回の茶事講座の後、参加者の方から、お葉書をいただいていました。「先生のお茶には、そこに愛はありますかと、いつも問いかけられているような気がする。」と。はい、いつも思いっきり微笑んでいるつもりですが、皆さんが受け止めてくださっているかどうか。笑。

懐石は、煮物椀に桜餅の形をした鯛の桜葉蒸しを用意しました。お椀は懐石の煮物椀を代表する三つの椀のうちの一つ、時代の吉野椀です。(後の二つは正法寺椀、秀平椀)

汎庵茶事講座最終回

春の野遊びの趣向で、時代の重箱に、豆腐の木の芽田楽(焼き物)と強肴を2種盛り込んでお出しするとワッと歓声が上がりました。

汎庵茶事講座最終回

主菓子は、浮島という蒸し菓子です。卵と白餡と少々の粉で作ります。季節に合わせて色も変えてゆきます。浅い春の頃には、淡い色で、春が深まったこの頃には少し濃い目の緑とピンクで華やかさを出したほうが気分かなと。

汎庵茶事講座最終回

中立の後、後入り。
床の花は、吉野桜の一枝を、時代根来の隅切り盆に載せて。名残の桜、そして、まもなく命を果てる桜です。水は入れずに置きました。生と死の輪廻を感じていただければ。

汎庵茶事講座最終回

汎庵茶事講座最終回

濃茶茶碗は、『遊心』という銘を付けて師匠からいただいたものです。私のお茶の原点になっているものです。

後炭の後は薄茶。

汎庵茶事講座最終回

もうすぐ茶事が終わってしまうと、名残惜しい気持ちの薄茶にできるかどうかは亭主の力量。いつもは、大人数なので半東さんに水屋から点出しをお願いするのですが、今回は最終回、少しでも皆さんと一緒に茶室で過ごしていただきたくて、亭主に大服に点てていただいて、一服づつにしていただきました。
干菓子はいずれも手づくり。相変わらず、ちょっと遊んで盛らせていただきました。桜川のイメージです。

汎庵茶事講座最終回


最後のご挨拶では、それぞれに感じたことを自分の言葉で表していただき、いい茶事になりました。

メールやお手紙、お葉書をいただきました皆さま、ありがとうございました。みんな私の宝物箱に入ります。
悔いの残らない最終回を迎えることが出来ました。
皆さまに感謝。



2011年12月汎庵茶事講座「夜咄の茶事」レポ

2012年01月18日 12:47

じないまちでの活性化のお手伝いなど、用事が増えて、レポートが遅くなりました。

12月9日10日11日、万博・日本庭園の茶室汎庵にて、蝋燭の灯りで楽しむ夜咄の茶事の勉強会を開催しました。
日本庭園は、急ぎ足で冬支度。落ち葉のじゅうたん、大量のどんぐりの実を踏みしめながら、汎庵へ荷物運び。
お茶道具、懐石道具、懐石やお茶の材料や消耗品などなど。茶事をするには、それはそれは多くのものが必要です。夜咄ですから、灯りの数々の道具や暖を取っていただくための火鉢や手あぶりなども。
茶事は「夜咄で上がりて候」と言われるように、なかなかたいへんなのであります。でも、たいへんな分だけ、お客様には感動がON、亭主や裏方にとっては得がたい修行がONできるもの。がんばらなくっちゃ、です。特に、半東役の方は、いつもより一杯することがあって、しかも暗い中で。皆さん、しっかりやり遂げてくださいました。お疲れ様でした。

日本庭園は開園が午後5時までですので、夜の茶事は無理・・・ではないのです。昨年も、実は昼に夜を作ってしまいました。
茶室だけ、電気を消して、雨戸を閉めて暗くしても、露地には太陽が・・・では、気分が出ませんので、茶室の隣の立例席に、にわか露地と腰掛待合を作りました。これで露地も真っ暗。

12月汎庵茶事講座

夜咄の茶事の環境が整いました。雪がしんしんと降りしきる寒い夜をイメージして茶事が始まります。今回の隠れキーワードは「小狐こんこん」
数年前の冬に京都の相国寺の宗旦稲荷にお参りした帰りに、ばったり出会った方もお客さんにいらしてくださいました。
ここ、万博の地にも狐がいたんですよと終始楽しそうにお話くださった男性のお客さま参加の方は、ひょっとして現代まで生き延びた宗旦狐さんが化けたのかなと思わせるような、軽妙洒脱な素敵な方でした。
狐の灯りに導かれて、まるで夢のような3日間の茶事ができました。
年末で何かと忙しくてご参加が叶わなかった方も、茶事講座の一端を、レポートでお楽しみください。

水屋勉強コースは、午前10時から、いつものように懐石料理とお菓子の実習があります。見ているだけの料理教室では、解ったつもりでも実際にやろうと思うと出来ないことも多く、私は見ているだけの料理教室は、実際に作ろうと思わないことが多いので(私もフレンチや中華の料理教室は行くことがあります。何せ、食いしん坊なので。笑。)茶事講座では、なるべく、いろんなことをしてもらっています。失敗も一杯してもらっています。失敗するとしっかり覚えるし、皆の勉強にもなりますので。
11時になると半東さん役は、半東モードになってもらい、時間と闘いながらの作業が始まります。水屋(台所方)は、懐石の食器の準備や料理の仕上げをしてゆきます。

お客さんコースは午前11時40分に待合に集合。
茶事のお客に呼ばれたときの対処の方法、席入りまでの動きを解説させていただきます。今回からは、本番の茶事のときに困らないように、お包や会費の袋の用意や渡し方なども体験していただきました。

12月汎庵茶事講座


汲みだしは、本日は甘酒です。寒い中いらしていただき、冷えたからだを温めてもらおうと思う亭主の気持ち、そして前茶のお菓子代わりになるように、夜咄では生姜湯や柚子茶などもお出しすることがあります。
にわか仕立ての露地に入ると、揺らめく蝋燭、足元には火鉢、円座と莨盆のほかに手あぶりも用意されています。

12月汎庵茶事講座

亭主の迎えつけで、手蜀の交換。ここは、グッと感動する場面です。

12月汎庵茶事講座

蹲に湯桶が用意されていますので、お湯で手と口を清めます。

席入りすると、床には手蜀が置かれていますので、蝋燭の揺らめく灯りで掛け物を拝見します。
本日の掛け物は、利休も参禅したという堺の南宗寺の老師の筆にて「紅炉一点雪」。
蝋燭の灯りのほの暗い茶室の中では、赤くいこった炉の炭がひときわ美しく目に映ることでしょう。その赤い火の中に一片の雪が落ち、その瞬間に消えてなくなります。その鮮烈なイメージに皆さんは何をを感じ、何を思われるでしょか。この謎解きは、2月の峯風庵茶道塾inCALPE DIEM 草間彌生展スペシャルでお話させていただきます。

主客挨拶を交わし、前茶となります。裏千家では初入りの釜は濡れ釜にしますが、夜咄は煮えのついた釜をかけます。茶室の中が少しでも温まるようにとの配慮もありますし、まずは一服お茶を召し上がっていただき、冷えたからだを温めてもらおうと思う亭主の気持ちです。
短檠の灯りだけで、水屋道具でサラサラと進めます。

12月汎庵茶事講座


続いて、初炭手前。下火にうっすらと尉がかかっている、その風情が深く心を打ちます。尉は情でもあります。おもてなしいただくご亭主のお気持ちが、炭の姿に表れています。

12月汎庵茶事講座

羽箒は、縞ふくろう。
手蜀の明かりで香合の拝見。楽斎作の信楽の可愛いたぬきです。
夜咄では、夜行性の動物たちが大活躍です。

12月汎庵茶事講座


懐石には膳蜀が供されます。蝋燭の火が危なくないように、四畳半以下の小間では、膳も膳蜀も、畳の縁内に取り込みます。汎庵は広間ですが、夜咄は小間で3名くらいのお客様で開催するのがベターですので、小間のつもりで取り込む勉強をしていただきました。

12月汎庵茶事講座

食事中、蝋燭の芯を切るのもお客の役目。皆さん楽しそうに火遊びなさっておりました。笑。こんな体験はめったにできません。

懐石の向付は今回新作の天然の甘海老と長芋、アボガドの和え物。加減醤油に少し油を混ぜました。寒いときには油分を取ると体が温まります。何か蒸し物のような暖かい向付けが夜咄ではご馳走ですが、ご飯と汁、向付、三品を熱々でお出しするのは、結構難しい。懐石のメニューは、当日の水屋のスタッフの力量も考えて作らないと、無理を重ねてはかえっておもてなしが台無しになったりすることも。茶事は何事も臨機応変です。

12月汎庵茶事講座

汁は、一夜凍豆腐。寒い日には水に浸けておいた豆腐が一夜で凍ります。今ではそれほど寒い日は少ないので、冷凍庫に一晩入れ、解凍して薄味で煮ると、出来上がり。おもしろい食感です。名前を聞くだけで、ああ、寒い冬って言う感じでしょ。
煮物椀は、雪のように見える蕪蒸し。

12月汎庵茶事講座

焼物は、寒ブリの鍋照り焼き。氷見の天然のよい鰤が手に入りました。強い肴は大根と豚のべっこう煮。鍋仕立てでお出しします。懐石では背の青い魚や豚などはあまり使いませんが、夜咄だからこそのメニューです。

12月汎庵茶事講座


八寸は、銀杏の松葉刺しと鴨です。

12月汎庵茶事講座

お酒は、新潟の地酒「雪の茅舎」。少し熱めに燗をつけて。
主菓子は、これも暖かい蒸し饅頭にしたいところですが、今回は雪の振る寒い夜のイメージなので、練りきりの雪兎にしました。氷餅を振りかけています。兎の年も、もう少しで終わりです。

12月汎庵茶事講座


中立で露地に出ていただくと、わあ~~と、歓声が起こります。
半東さんのセンスで並べていただいた20匹の小狐のキャンドルが、揺らめいています。
キャンドルアーティスト、小泉淳司さんのキャンドルです。中の一匹は宗旦狐です。
写真をお見せしたいところですが、これはご参加いただいた方だけのお楽しみにしておきましょう。私の夜咄のおもてなしの趣向です。

鐘鉦で後座の準備がととのったことをお知らせします。
床には、花の変わりに、石菖の鉢をおきます。蝋燭の油煙を取ってくれるという植物です。
花を入れると陰が心を惑わすので、夜咄では花を入れないのです。

蝋燭の明かりの中ではご亭主の姿や所作がことのほか美しく感じられます。夢のような濃茶が練りあがるまでの時間。夜咄ならではの醍醐味です。

12月汎庵茶事講座

茶入は古唐津の大海、茶碗は、寛治作のうっすらと雪をかぶったような赤楽です。茶杓は、太玄和尚作の「庵の友」。今宵であった方はみんな、生涯を通じての茶友になれますように。

続き薄で、薄茶を。

12月汎庵茶事講座

棗は、私がデザインして池ノ浦大紀先生に作っていただいた、雪華蒔絵大棗。夜咄で映える大きな雪の結晶が表に二つ、中に三つ。茶碗は、桐山作の「木枯らし」を主に茶碗にしました。
干菓子は、実習で作った雪輪の落雁と笹の雲平。雪笹に見えるように盛り付けました。

12月汎庵茶事講座


講話は、今回は軽めのお話「相国寺と宗旦狐」。夜咄ですから、何か皆さんでお話をと言う趣向です。宗旦は利休のお孫さん。仕官せずに市井の茶人として慎ましく生きた方とのこと。美しい点前とお人柄に人望も厚かったそうで、宗旦のような茶人になりたいと思った古狐が、京都の相国寺の茶会で宗旦に化けて点前をした狐がいたそうで、今も相国寺の中に、この狐を祭った祠があります。もっと長い話ですが、ここはかなりはしょってしまいますね。祠に詳しい話が紹介されていますので、いちど、是非、足をお運びください。相国寺の中にある承天閣美術館では、長谷川等伯、俵屋宗達などの屏風絵店も開催されています。

止め炭をして、釜に煮えがついたら、名残惜しいですが、退出のとき。
最後の挨拶では、ぜひとも、お客様はご自身の言葉で、一言でも感じたことを亭主に伝えてくださいますように。亭主のおもてなしは、客が感じたことが総てです。大寄せの茶会のように亭主から説明することはありませんので、おもてなしの世界を心で感じ取れるお客様がいないと茶事は成り立ちません。茶事の当日は皆さん、あまりお話をされないのが残念なのですが、後日にメールやお手紙などをいただくと、いろんなことを感じ取ってくださっていて、ああ、しんどいけどやってよかったなあと、しみじみ思ったりしています。

次回も、稽古のための稽古茶事ではなく、主、客、裏方、三者三様に心を育てる茶事になるよう、創造的な茶事の世界をご用意したいと思います。
次回の2月は10日11日12日に開催します。幻の茶飯釜の茶事ですので、お楽しみに。






10月の万博・汎庵茶事講座=名残正午の茶事レポ

2011年10月20日 00:13

2011年10月汎庵茶事講座名残
2011年10月14日15日16日の万博・日本庭園 汎庵茶事講座

10月は名残の季節。侘びの心が一番感じられる、大好きなお茶のシーズンです。
日本庭園では早くも、薄紅葉。

2011年10月汎庵茶事講座名残

季節季節に目を楽しませてくれる日本庭園は、急ぎ足で深まり行く秋支度をはじめています。
水屋勉強コースは、10時から懐石料理とお菓子作りの実習から。
心をこめてお客様をもてなすための準備、実践の場です。なかなか水屋の勉強が出来るところはないのでと、やる気マンマンで参加していただく皆さん、とても頼もしいです。
せっかくなので、自分の持てる力を精一杯発揮していただけるように、本番の茶事の水屋に近い形でよ取り組んでいただいています。いつもはお客コースでの参加でしたが、今回は水屋でご参加いただいた方もいらして、「最初は緊張したけど、楽しかったし、一杯勉強することがあって、また水屋で参加します」というお言葉をいただいて、私もとてもうれしく思いました。お茶の心を体得するには、やはり裏方の修行が一番かと思います。

2011年10月汎庵茶事講座名残

私も苦手な風炉の灰型をしているときに、一番修行だなあ~と。笑。特に、今回は鉄のやつれ風炉に掻きあげ灰にしましたので、大汗掻きました。

今回は、干菓子の落雁も作っていただきましたが、これがどの日も好評でした。お客さんコースの方々も、落雁は水屋で作りましたとお伝えすると、感心されていました。結構簡単に出来るのですけどね。

お客様コースは11時40分集合です。半東さんが汲み出しを出す前に、玄関の入り方から、身づくろい、待合の掛け物の見方など、茶事に招かれたときの待合までの準備やマナー全般についてご説明。
本日の待合の掛け物は竹の絵に「葉々清風」の語。妙心寺館長のお筆です。
待合の掛け物は、その日の茶事の趣向をさりげなく伝えるものが掛けられていることが多いもの。中国の漢詩から抜粋された語で、友の来訪を受けて楽しいときを過ごし、名残惜しく思いながら門の外まで見送ったところ、竹の葉も風を受けてサラサラと音を立て、一緒に名残を惜しんでいるようである、といった意味かと。来月になると、茶人の正月がやってきて、筧や枝折戸なども青竹に替わります。季節の移ろいも感じ取れます。
ああ、名残の季節だなあと、思っていただければ幸いです。
名残の汲み出しは蕎麦茶にしました。器は麦藁手。汲み出しにも心を込めて、あれこれ考えてお出ししています。
待合から腰掛待合に出て、亭主の迎えつけを待ちます。

2011年10月汎庵茶事講座名残

2011年10月汎庵茶事講座名残



汎庵の露地の風情はすばらしく、清々しい気持ちになります。
蹲を使って、お席入り。

2011年10月汎庵茶事講座名残

床には「閑座聴松風」の墨蹟。中置にしたやつれ釜の風情に、秋が深まってきたことに気づきます。
今回は金曜と土曜日は懐石部分を立礼にしましたので、金曜土曜は、風炉ではありますが、初入りの挨拶の後、初炭手前。その後に席を移っていただきました。茶事は臨機応変、その対応の妙に亭主の力量が伺えます。

2011年10月汎庵茶事講座名残

懐石は、名残の風情を感じていただくために寄向にしました。風炉の間に使ったさまざまな向付をとりどりにご用意。お隣の向付の器も楽しんでいただけます。
懐石料理も名残にふさわしく、少し侘びたものに、そして風炉の季節の食材にも名残を惜しみます。
向付は、あぶり鮪の山掛け。山芋のネバネバが後に煮凝らないように、細かい微塵きりにして包丁で叩いてお出しします。

2011年10月汎庵茶事講座名残

汁は、赤味噌の味を勝たせ田合わせ味噌に美味しい鳴門金時のさつま芋。お酒は、いつものように、のん兵衛の千里庵スタッフが取り寄せてくださった美味しいお酒。今回は実りの秋の刈穂にちなんだ石川県の地酒「楽穂」
煮物椀は、夏の食材の冬瓜と鶏の丸。冬瓜は湯がいて水にさらして、干し海老を入れた味付けだしで煮ておきます。薄葛仕立てにして生姜を添えると、滋味深い煮物椀になりました。

2011年10月汎庵茶事講座名残

焼き物は、これも名残の鱧を酒塩焼きにして、胡麻を振りました。器は江戸時代の馬の目皿です。虫食いの出た侘びた器も名残の風情です。

2011年10月汎庵茶事講座名残

強肴は、鶏と栗と干し葡萄の照り煮。鶏も栗も低温の油でじっくり揚げてから煮ています。手間暇が味に深みを添えています。

2011年10月汎庵茶事講座名残

懐石料理は、ホッコリと心が温まる料理です。
炭手前は、めったに使わないやつれ風呂に亭主役の方は少々困惑気味でしたが、事前にレクチャーしますので、3日とも皆さん、首尾よくクリア。
主菓子は、久しぶりに登場した、秋の実りと銘をつけた求肥です。餡を使わないのですが、ドライフルーツとナッツをたくさん入れましたので、こくのある味わいです。皆さん、絶賛!思わず、私、にんまり。

2011年10月汎庵茶事講座名残

中立では、半東さんが大活躍。炭のいこり具合やお湯の沸き具合をチェックして、その場に対応してすばやく働きます。亭主は花を入れます。茶花は少し淋しいくらいにいれますが、名残の月は、花をたくさん入れるのがおもてなし。残り花や帰り咲きの花が風情があっていいもの。実の成っているものも10月に限りいれることが出来ます。花入れは背負籠です。たっぷりの花は、まるで秋の山で摘み取って籠にいれたかのようですね。

2011年10月汎庵茶事講座名残

初座の床に禅語のように、松風のように聴こえる釜の煮えの音。寂かに練られた濃茶は、まさに甘露。後炭手前、薄茶と茶事は進んでゆきます。

2011年10月汎庵茶事講座名残

2011年10月汎庵茶事講座名残

濃茶からは水屋のメンバーも席入りしていただけますので、濃茶の終わりぐらいから、毎回テーマを決めてお茶の世界を広げていただけるようなお話をさせていただいております。今回の講話テーマは「侘びの茶道具」
濃茶の茶碗は、李朝の御本茶碗で漆継が施されています。懐石の向付の器には、江戸時代の赤膚焼きの柏の葉の形をしたもので、私が金継に出したものです。名残の茶事では繕いのある道具が好まれます。侘びといえば、言葉で説明しにくいですが、日本人なら誰もがなんとなくわかる美意識です。侘びは、淋しい、わびしいといった感覚と近いものがありますが、それだけではないようです。人の心を捉える存在感、完全な形を求めゆく過程の動的な力など。壊れたものは使えなくなりますが継ぎを施すことで、また蘇り、壊れる前以上の魅力を発揮することが茶道具では多々あります。桃山時代の陶片を継ぎ合わせたお茶椀も持参して皆さんに見ていただきました。呼び継茶碗です。壊れたものをそのまま修復するのではなく、まったく別の陶片をあわせてパッチワークのようにつないでゆくもので、私が崇拝している白州正子さんが、日本の美として紹介されています。壊れたものから新たな素敵なものを生み出してゆく、侘びの茶道具のきわみです。
私も、もう若くはないので、あちこち痛みや壊れが出てきます。考えて見れば完全なる人はめったにいないか、まったくいないかも。みな、どこかに、傷や痛みを持っていて、それでも一生懸命生きているのだと思います。傷や痛みがあるからダメなのではなく、それもひっくるめて個性だと思うこと、そして、傷や痛みが癒えたとき、再び、力を得て、人や社会にお役に立てることが出来るようになる。そんな人の生き方にも、侘びの茶道具は、通じるような気がします。
白州正子さんは、流派のお茶はしない人でしたが、お茶の祖の村田珠光や利休といったお茶の源に直結していた人だと思います。白州さんが茶道具について語った言葉「お茶の精神が形になったものが茶道具です。」を見つけたときに、私が侘びの茶道具に魅かれる意味がわかったような気がしました。
今回の汎庵茶事講座では、私の好きな侘びの茶道具をたくさん使うことが出来ました。
懐石の焼き物を入れたお皿は、江戸時代の馬の目皿、香の物を入れた器は片口でした。
茶入はまだらのある古唐津、薄器は、これも江戸時代の根来のもの。薄茶の主茶碗は伊羅保でした。
皆さん、楽しんでいただけたでしょうか。

2011年10月汎庵茶事講座名残

残心のお見送りを受けて待合に帰って、再び掛け物をご覧いただいたら、名残の茶事の数々のおもてなしが走馬灯のように、心を駆け巡ってゆかれたことと思います。

さて次回は12月に夜咄の茶事をさせていただきます。蝋燭の灯りで楽しむ幻想的な茶事です。いつもと同じ時間に開催しますが、雨戸を閉め電気を消して、露地も室内に造り真っ暗にいたしますので、夜の風情を味わっていただけます。
日程は12月9日(金)10日(土)11日(日)です。10月茶事講座参加の方は先行予約が出来ましたので、もうだいぶお申し込みが詰まってきています。お申込みはお早めにお願いします。
詳細はこちらをご覧ください。
http://www.wa-no-kokoro.jp/hanan/20/














第14回 9月の汎庵講座 夕去りの茶事レポート

2011年09月28日 02:47

2011年9月汎庵茶事講座
夕去りの茶事、なんとも風雅な響き。
夕方少し早い時間にお席入りしていただき、初炭と懐石を。後座は、短檠と手燭の蝋燭の灯りで、濃茶と薄茶。続き薄にして、余り遅い時間にならないように、茶事を終えます。
夕去りの茶事は、季節はいつでも良いのですが、私は月見の頃が一番ふさわしいように思います。
月の出を待ちながら、親しい人とともに過ごし、人生時間を刻んでゆく。
9月の十五夜の少し前の開催でしたが、その時期には、夕去りの茶事が終わる頃にきれいなお月様がぽっかり空に浮かびます。
今回の講話のテーマは「指月~~日々の行」でした。
待合の掛け物は、寒山指月図。「掉棒打月」の無門関の中の語が書かれています。
月が欲しいと、棒をふるってとろうとしても取れませんよ。禅の境地は、簡単には得られません。日々、行を積むことが大事ですよと言う禅の教えですが、お茶もまた然り。月はお茶の道の先にあるもの。指は日々の稽古であったり、さまざまな学びであったり、師の教えであったりします。指の先に、月が見えたら、その指はもう不要です。指だけを見ていては大事なものを見失います。指の先の月を見て欲しいと思います。
月は人それぞれ。私も、できればそれぞれの方の月のありかを指させるようにと勤めていますが、講座では、毎回決まった方が来てくださるとは限らないし、それぞれの方の指になるのは本当に難しいことです。
でも、今回は、ほの暗い蝋燭の灯りの中で、一人一人の方が、自分とお茶のかかわりについて、ボツボツと語ってくださったので、私にもいろんなことが見えました。皆さんと気持ちが急速に近付いた、そんな気がしました。
お茶の意味するところを判ろうとしてくださる方が増えて、真髄に触れて泪を流してくださる方もいらして、私適には、かなり感動的な茶事講座になりました。
これからも、汎庵茶事講座での出会いを大切にしてゆきたいと思います。
2011年9月汎庵茶事講座


さてさて、汎庵茶事講座は10時から水屋コースの方々が集まって、懐石料理とお菓子作りの実習からはじまります。料理は普段全然しません、りんごの皮も剥けません~~など、と言ってる方もいますが、全然大丈夫、そのうち慣れます。(笑)
2011年9月汎庵茶事講座

おもてなしの心は行(修行などといった難しいことではなく、まずは実際に体を使って行なうこと。頭で考えているだけでは判らないこともたくさんあります。)から生まれます。お茶の準備もそうですが、さらに懐石やお菓子を心を込めて手作りすることによって、お茶のおもてなしの心が深まり、茶事の主目的である濃茶に深みを増します。
茶事の準備は、限られた時間の中で、自身の持つ力を存分に発揮し、さらに能力を高める鍛錬でもあります。
お客様コースの方が到着される前には、水屋の方は懐石のセッティング、半東の方は、火入れの炭や下火をいこしたり、打ち水をしたり、くみ出しの用意をしたり、大忙しです。
茶事の裏方は、亭主のために自分を無にして働きます。人のために働くということはとても尊いことですし、自身の人間性にも磨きがかかります。実際の人生でも、そのような場面に遭遇することがあることでしょうが、茶事の中で、めったに出来ない学びのチャンスがあるのです。
亭主役の方は、水屋の方々に支えられ、お客様をおもてなしをします。水屋の方への感謝も忘れずに。
お客様は、できれば自身で亭主をする、水屋をするという経験をつんでお客になられると、いいお客さんになることが出来ます。お客はただご飯を食べてお茶を飲むというのではなく、亭主の心に触れ、感謝の念を持って、一緒に茶事の一期一会を創造してゆくのが客の本分です。
こんな茶事の本質に触れていただけるよう、汎庵茶事講座はなるべく本番の茶事に近い形で開催しています。心を育てる、考える力・感じる力を育むという、現代の教育から抜け落ちてしまったところを体得できるのがお茶の魅力でもあります。茶道の修道性のみならず、茶事講座は楽しさも一杯ですので、目一杯楽しんでいただきたいとも思っています。

午後の茶事がはじまります。
なんと言っても、日本庭園や露地の四季折々の風情は絶品。茶事への期待が高まります。
腰掛待合で、しばし時を過ごすと、亭主の迎えつけが。蹲を使って席入り。
2011年9月汎庵茶事講座

2011年9月汎庵茶事講座

2011年9月汎庵茶事講座

夕去りの茶事なので、初座が陰陽の陽になり、床には花が入れられています。
月見の宴をイメージして、鼓に花を入れました。挫折した鼓の稽古。いま私の鼓は花入れとして大活躍。(苦笑)
2011年9月汎庵茶事講座

亭主はお客様一人一人と挨拶を交わし、まだ夕食には少し時間が早いので、風炉の時期ですが初炭手前から始めます。夕去りは続き薄となり、後炭は略しますので、ここで風炉中拝見と水次があります。
2011年9月汎庵茶事講座

香合はバリ島で見つけた兎のこけしを、東急ハンズに持っていって胴の部分をカットしてもらい、香を入れる部分を彫刻刀で私が掘りました。お耳がぴんと立った兎は席中で、かなり存在感がありました。可愛い~~。
2011年9月汎庵茶事講座


いよいよ、水屋コース力作の懐石料理。
秋到来で、向付けは〆秋刀魚の梨卸し和え。汁は赤だしに焼き茄子。
2011年9月汎庵茶事講座

2011年9月汎庵茶事講座

煮物椀は菊花豆腐、焼き物は秋鮭の幽庵焼、強肴は揚げ茄子と枝豆の胡麻酢和え。
2011年9月汎庵茶事講座

2011年9月汎庵茶事講座

懐石料理は料理屋さんの料理と違って、おいしすぎないこと。全部食べ終わって最後の湯斗をいただいたときに、ああ、美味しかったなあと心が喜ぶような料理をと、師から受け継いでいます。
主菓子は、月見団子です。これは、腰のある団子を作るのが、なかなか手ごわい。
2011年9月汎庵茶事講座

中立のあとは、席中を改めます。床には軸を掛け、手燭を置きます。
水指と茶入れを飾り、短檠に灯を点します。
鐘鉦を打って、準備が整ったことを知らせます。
床は円想です。待合の指月図には月は描かれていませんでしたので、後座で月を見つけていただければとの思いです。
2011年9月汎庵茶事講座

厳粛に濃茶が練られ、無言の時間に心が寂とします。
蝋燭の灯りは、なぜか人の気持ちを寄り添わせてくれます。
2011年9月汎庵茶事講座

濃茶の茶碗は、萩焼。萩の花からの連想で秋の季節が香ります。この茶碗は、師匠が遊心と言う銘をつけて形見分けに下さったもの。私の月を指差してくださったものです。
お茶で遊ぶというのは、簡単ではない。見事、茶の道をはずさずに遊んでみなさいと。
今の私のお茶を師匠に見ていただきたいと思うものの、叶わぬことです。
薄茶のためには、甲府から取り寄せた銘菓「月の雫」と私が作った兎の落雁をご用意しました。
2011年9月汎庵茶事講座

講座の初日は、のっぴきならない理由で亭主役の方が参加できなくなり、急遽、私が亭主をしながら茶事講座を進めました。
毎回、皆さまに楽しんでいただこうと、道具組をしておもてなしの世界を作っていますが,この日は、参加者から、道具の意味がようやくわかったとおっしゃっていただきました。道具は亭主の分身です。道具が亭主の人生や心のありようなどを語りますので、道具を通じても主客の心の交流ができ、これがまた茶事の醍醐味でもあります。
じないまち峯風庵では、私が亭主を勤めるおもてなしの茶事も開催しておりますので、ぜひ、稽古茶事や勉強会だけではなく、本当の茶事もお楽しみください。
汎庵茶事講座は10月は名残・正午の茶事の勉強会です。是非こちらにもお出ましください。茶事が始めての方も大歓迎です。

最後に、久しぶりに万博太陽の塔の写真を撮ったので、ご紹介。万博公園に行くモノレールは、なんとも大阪らしい楽しい列車が走っています。遠方の方も、旅行がてら是非大阪へいらしてください。お待ちしています。
2011年9月汎庵茶事講座

2011年9月汎庵茶事講座

汎庵茶事講座7月朝茶事「天神祭り」の茶事レポ

2011年07月29日 15:12

追加


7月の汎庵茶事講座が終わり、骨休め。
疲れがたまると体中が、そして本当に骨までバリバリ音を立てているようで、骨休めの言葉に、思わず笑ってしまいます。
今回の茶事は朝茶事。
残念ながら予定が合わなくて参加がかなわなかった方々にも、このレポートでお楽しみいただければ幸いです。
写真を撮り忘れているものも多々ありますし、後座のお茶の時間には、風情を壊すようで写真が撮りにくいですし、写真ではお伝えできないものがお茶なので、後座の写真はちょっと少ないですが、お許しを。

暑い夏には、早朝のまだ涼しさの残るうちに、さらりと茶事を行います。暑い夏だからこそ、涼しさのおもてなしが心に響きます。
やはり、朝茶事は、名水点がご馳走です。名水が湧き出る山中には涼やかな風が吹いていることでしょう。そんなイメージやご亭主が早朝から水を汲みに行って下さった働きやお気持ちが、深いおもてなしになります。
7月追加


お茶と言うとお茶の稽古をすることだと思われている方もありますが、普段の稽古は、茶事をするための準備であり修行であるのですが、茶事をされる方が少なくなって、本来のお茶の形が見えにくくなっているのが現状です。
どなたにも、茶事の世界を体験いただける、そんな場を作りたいと、汎庵茶事講座を開催させていただいています。

汎庵茶事講座は勉強会ですが、なるべく稽古のための稽古茶事ではなく、本番の茶事に近い形で、亭主、お客、水屋(裏方)の体験をしていただきたいと願っています。無理はいけませんが、その時々、それぞれの方がそれぞれに出来ることの精一杯にトライしていただくことできれば、気持ちのよい茶事の勉強会になります。
今回は3日間の開催でしたが、いずれの日程も、ご亭主役もしっかり勤めていただき、お客様も皆さま笑顔で応えていただき、水屋コースの皆さまも亭主を支える裏方の本分を全うしていただき、いい茶事になりました。
今も、茶事の興奮冷めやらずといったところで、茶事のあれこれを反すうして、余韻を楽しんだり、反省したり。

私も本番の茶事と思って毎回取り組んでおりますので、おもてなしの世界をご用意するには、想定のお正客が必要です。茶事はお正客のために催すものですから、正客へのおもてなしをあれこれ考えながら準備をしてゆきます。
講座ですので、役割は順に体験していただいておりますし、数日続けての開催になりますので、その日の正客役というのではないのですが、私の中ではお正客を心に決めて、茶事の世界を作っています。

7月汎庵茶事講座

今回は、実は、新潟からと小笠原の父島からご参加いただける方がいらっしゃるとのこと。遠路、大阪の暑い夏にいらしていただくことに、ありがたたいなあという気持ちで一杯になりました。
おりしも大阪は天神祭りの真っ最中。
自身で茶事を初めて15~6年になりますがまだ、天神祭りの茶事はしたことがありません。
是非、この機会に、天神祭りの茶事でおもてなししよう、大阪の夏をお楽しみいただこうと思いました。
天神祭りの茶事ならば、お正客だけでなく、連客の皆さんにも判りやすく、きっと会話も弾むことだろうと。

祭りのメインは夕刻からですが、24日の朝には竹を左右に立て注連縄を張った(斎竹)船が堂島川に浮かび、鉾流神事がおこなわれます。鉾と一緒に罪穢れを移した人形を川に流します。祭りとともにまっさらに生まれ変われるという、人の思いが、なんとなく愛おしく感じられます。
祭りには、神事の靜と、神輿を担いだり、花火を上げたりの楽しみの動があります。
茶事にも靜と動があります。さて、いかなる茶事になりますやら。
まずは、天満の天神さんにお参りして、学問の神様菅原道真公に、どうぞお知恵をお授けくださいと、お祈りするところから茶事は始まりました。

待合の床には、「神」の字の色紙、祭り太鼓、流水文様の能の舞扇に天神祭りの鉾流れ神事で流す人型を飾りました。
待合では、待合の掛け物と茶室の掛け物の違いをお話させていただきました。

冷たいレモン水のくみ出しをお召し上がりいただき、腰掛待合へ。
朝茶事では、打ち水もたっぷり、簾や枝折戸、にじり口の戸もたっぷり水で濡らして、涼を呼びます。茶室の窓の障子もはずしておきますが、汎庵の丸窓ははずすことが出来なかったので、少し窓を開けて簾を見ていただき、涼を感じていただきました。
7月追加


初入りのご挨拶も、朝茶事ですから「早朝よりのお出まし、ありがとうございます」「お出ましにくい時間にご迷惑かと存じましたが~~」など、朝のご挨拶に。「おはようございます」とお客様もお応えいただきました。
汎庵備え付けの梅文様の風炉用の風炉先、どうにも使いにくかったのですが、今回は天神祭りなので、ぴったり。菅原道真公は、梅がとってもお好きでしたので、天神さんの紋章は梅なんです。
7月汎庵茶事講座

7月汎庵茶事講座


早朝からの茶事ですので、まずは炭手前から始まります。この間に水屋は、短時間のうちに朝ごはんの準備です。
香合は、八角鳳凰文様。祭りの主体、天神さんの御神霊を移した御鳳輦の上には鳳凰の飾りが。御鳳輦が通り過ぎるまでに願い事をするとかなうという言い伝えがありますが、鳳凰の香合がお客様の間を拝見に回っている間に、しっかり願いごとをしてしまいました。願い事は、内緒です。笑。
朝茶事ですので、陽が高く上がる前には終わることがおもてなしですので、後炭は省略しますので、初炭で、風炉中拝見。水注もあります。
7月追加


懐石では、天神祭りの名物や祭りにちなんだお料理をご用意しました。
向付は、ざくざく。鰻と胡瓜の和え物がうざく。これはよく知られています。鱧と胡瓜の和え物がざくざくなんです。たぶん大阪人しか食べないのではないかと思われる鱧の皮を焼いて刻んだものに、下ごしらえをしっかりした胡瓜や茗荷などの和え物で。
7月汎庵茶事講座


お汁は、南瓜。真夏の味わい、八丁味噌仕立てにして冷たく冷やして。山椒を吸い口に。
お酒は、大阪の玉の光。玉神輿にちなんでご用意しました。
7月汎庵茶事講座


煮物椀は白天のおつゆ。白天は、白いさつま揚げにキクラゲが入っています。キクラゲが雷をあらわしているとのこと。添えは貝割れ菜と決まっています。昔は大根の間引菜だったそうで、これもぎざぎざなので雷。道真公の無念が転変地異を起こしたとの謂れから食べられるようになったお料理です。懐石風に揚げ真蒸で作りました。
7月追加


代えのご飯は、祭りの直会で食べられる白蒸しをちょっと小ぶりにして。竹の皮で巻いてあるのですが、籠飯器に竹の皮を敷いてお出ししました。梅干が添えてありますが、梅干の種の中のずいを天神さんと呼びます。小吸い物の実にしてもこの時期いいものです。
7月汎庵茶事講座


焼き物を略して、強肴。これまでに使った食材を生かしてお出しするのがお約束です。
南瓜の煮物、穴子の昆布巻き、三度豆を盛り合わせました。
7月汎庵茶事講座


三度目のご飯は、飯器に蓮の葉を敷いて、たっぷりと。蓮の葉っぱの緑がさわやかです。日本庭園の蓮池から千里庵のスタッフが早朝にとりに行ってくださったものです。
7月汎庵茶事講座


八寸は、蛸の照り焼きと枝豆。蛸も天神祭りにはつき物です。
7月汎庵茶事講座


何度やっても千鳥の杯は覚えなれないといわれますが、お茶は点前もそうですが、覚えるのではなく、自然に身に付くといった形がよいように思います。繰り返し、ご体験していただければと・・。

朝茶事のメインのご馳走は香のもの。5種か7種、たっぷりとご用意します。
5種のつもりが、6種になってしまいましたが、お許しを。

主菓子は、道真と銘をつけた淡雪梅酒羹です。卵白の淡雪の美しさ、梅酒の香りと梅酒漬けの梅の実を刻んだ食感が魅力のお菓子です。
追加



後入りの床には、天神祭りの団扇を小さなガラス瓶にくくりつけて花入れとしました。
お花は、日本庭園の水辺に咲く花をたくさんご用意いただきましたので、ご亭主役の方は、選ぶのに苦労^をするという贅沢。汎庵ならではの茶事の醍醐味です。
7月汎庵茶事講座


名水点のしつらいは、7世松月吉向 作の、かなつるべの水指に、小さな御幣をつけた榊を飾って、名水のしるしとしました。不器用な私の御幣作りは、見るも泪、語るも泪。でも、何とかがんばりました~~。
亭主泣かせの道具でしたが、お客様にはおおむね好評のようでした。笑。
7月汎庵茶事講座


茶入は、300年ほど前の海上がりの安南。長い間、海の底に沈んでいたと想像するだけで、少し涼しくなっていただけるかなと。
講座では、5人分の濃茶を練っていただくのですが、なかなか5人分の濃茶を練る機会は少ないかと思いますので、5人目の濃茶は亭主役の方に相伴していただいています。茶事では、互いの思いやりということもあって、練り加減が不具合でも、たいがい褒めていただきます。こんな機会に、どんな濃茶を自分が練っているのかを確認していただければと思ってのことです。
参加者全員に濃茶を召し上がっていただきますので、水屋では汎東役の方にも、濃茶を練っていただきます。ここで、初めて濃茶を練る方もいらっしゃいますので、遠慮せず、何でもトライしていただきますように。

続き薄で、薄茶を。棗と茶碗を手を交差して置合わせるところが、なんとなく好きで、ワクワクします。
7月追加


棗は、私のデザインで池ノ浦大紀先生にオーダーした、六瓢(無病息災にかけている)蒔絵の白漆。これだけ真っ白の漆は、世界でただ一人この方だけの技です。
茶杓の銘は「歓」、祭りのエネルギーを感じます。
薄茶のお茶椀は総てガラスにしました。中には、時代のカキ氷の器もまぎれています。
懐石の器にもガラスを使いましたが、天満の天神さんの境内には、ガラス発祥の地という碑もありました。薩摩切子が有名ですが、大阪にも切子の伝統があったようです。
干菓子は、私が作った舟の落雁と、四天王寺河藤製の水。船渡御のイメージで。
7月汎庵茶事講座


講話のテーマは「茶事の時間と進行」。まずは、時間の大切さに気づかされるのが茶事であること、特に、陽が高くなるまでの限られた時間に催される朝茶事では、時間の配分や、水屋もお客も、時によりサラサラと動くことも肝要です。特にお客様は、連客にも心して、茶事の流れが途切れないように、場を読む、空気を呼んでゆくことも大事です。亭主は、茶事にいらしていただいたということはその方の人生時間をいただいたことになりますので、茶事の時間には責任があります。よく茶事は亭主の舟に乗るという表現を使いますが、舟に乗ってしまえば、お客は勝手に降りることは出来ませんので、亭主は、おもてなしに心するということなのでしょう。ただ順番に茶事の流れを追うだけでなく、茶事全体の時間の使い方にも、配慮するように。と言うようなお話をしましたが、その日そのとき、その日の参加者によっても、話の内容が変わってきます。まさに、茶事は一期一会ですね。

サラサラと茶事を楽しむというのは、慣れないとなかなか難しいことですので、茶事ってどんなこと?と汎庵茶事講座をお訪ねいただきました皆さまに、是非一度だけでなくなるべく回を重ねてご体験いただきますように。回を重ねるごとに、汎庵やご参加の皆様とも親しみ、お茶への理解も深まり、楽しさも倍増します。ご無理のない範囲で、ぜひ、汎庵茶事講座は続けて受講していただければとてもうれしいです。
ご参加の皆様同志も、ぜひとも、茶人同士のお付き合いがここから始まり、茶事で呼んだり呼ばれたり、水屋を頼んだり頼まれたりできるような、そんな茶事の文化の継承が出来ればと願っています。

さてさて、残心(6月の茶事講座のレポをご参照ください。)の前に、天神祭りのあちこちでおこなわれる手打ち=大阪〆を、させていただきました。3日ともに音頭を取ってくださる方がいらして、めでたく大阪〆ができました。
「打ちましょ~パンパン  もひとつせ~ パンパン 祝うて三度 パンパン パン」
ありがとうございました~~。

次回の汎庵茶事講座は9月。「月を待つ」夕去りの茶事を開催します。講話のテーマは「指月 日々の行」。
夕去りの茶事は、初座は明るいうちに、後座は幻想的な蝋燭の灯りでお楽しみいただきます。水屋コースご参加の皆様も後座からは茶室に入って一緒に楽しんでいただけます。
勉強会ですので、いつもと同じ時間に開催します。(後座は茶室を暗くして開催)
日程は、9月8日(木)9日(金)10日(土)11日(日)です。
詳細ご案内・お申し込みは下記から。
http://www.senrian.com/hanan_chaji.html




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